阿曽原温泉小屋

k

厄介な現場でも。

2019-03-04

写真

春先の点検にて、倒木がダムの役割して急な涸れ沢に岩屑が堆積してます。

欅平~祖母谷間の道路管理作業は、場所的いうと、尾根の裏側の黒部川本流右岸にあたる場所は「奥鐘山西壁」となります。最近はクライミングに登る人は激減しましたが高低差700mの一枚岩の大岩壁です。

作業場所は、奥鐘山北壁 ということになりますが、大きな違いは薮や樹木が多い場所も沢山あるのです。要は、植物が根を張るクラックが多い事に成ります。(祖母谷川一帯は、植生豊で水量も多いから山菜も多いし、北向き斜面だからキノコ天国なのです!)

先にも書きましたが、論文や地質学の先生によれば祖母谷川が出来上がった時の力が岩盤の中の歪みとなってクラックが出来たとのことです。(前に書いた、中背山が祖父谷側に大崩壊したのもそのラインのせいとのことです)

普段は、落石も必要以上に心配する事も無いのですが雪解け・大雨・強風等の後には注意が必要です。クラックに水が入り込んで不安定になったり、強風で樹木が揺すられて斜面が緩んだりしするからです。

作業に入るとなると、誰も入った事のない斜面がほとんどでルートは自分達で見つけてゆかねばならず、壁の中の薮の急斜面を無暗に突っ込んで降りたけど懸垂用の支点を取る事が出来ず、進退窮って雑草に掴まりながら隣のルートのメンバーにザイルを投げてもらって助けられたり・・・。(名剣温泉先の岩壁上部150m位で立ち往生でした。無暗はイケマセン!

岩壁から道まで3m足らず飛び降り(落ちた?)たり、ザイルが器具に当ったまま荷重が掛り大部分が切れて解け始めて残った芯だけで止ったり・・・ヒヤヒヤ・ラッキーの連続で、このページに楽に10話は書けるネタが有ります。(黒部に怪我なし!なので真剣なのです)

先にも書きましたが、山腹全体を管理する事は出来ません。しかし、常識的にやれるだけの事をやったうえで、更に危険なエリアでもあると言う事を判ってもらう努力をしつつ自然を堪能してもらうようにしないといけないのかな~って。特に、登山者は自然の中に入る事については、それなりに危険が付きまとうと認識しておられますが、観光客はと言えば?となります。

「何で、こんなに迫力のある風景が出来たのだろう」「山奥での鉄道や道路の管理は大変だろうな」と想像してもらえたらいいのだけれど!

写真は、春先の融雪期(人間が入る前)に発生していたモノ・・・。 写真の直下は30mの岩壁と道路があり、倒木が大雨で動いたりすれば岩屑がずり下がり出しそうで・・・結局、全部人手で落とす羽目に!(左側が若い頃の小屋主です)

管理はどうするの?

2019-03-03

写真

祖母谷川に掛かる巨大なスノーブリッジ!(これだけの雪崩が出ると言う事は・・・)

欅平~祖母谷温泉までは、2.4kmの距離です。砂防堰堤工事が始まるまでは登山道だったそうで、奥鐘橋の上から見下ろすと当時の吊り橋の柱等設備が、河原縁に残っているのが見えますが、この橋は中部山岳国立公園制定時の記念切手のモデルではなかったかと?

重機・ダンプカー等が通れる作業用道路と鉄橋(奥鐘橋等)が作られて、登山道は廃道となり登山者・観光客も作業道路と鉄橋を利用することになり道路管理は国交省が担当していました。

2008年に砂防工事が終了して国交省が撤収、翌年から管理者不在となり整備主体が決まらず登山者以外は通行止めとなってしまいました。

道路が整備されないと、不整地を歩き慣れていない観光客には薦める事も出来ず、なにより源泉の管理には車で資機材を運んだりしなくてはならず・・・欅平まで温泉を送る事もままなりません。

地元関係者で対応を協議して、富山県・黒部市・黒部峡谷鉄道・欅平地区の山小屋で予算を出し合って「管理組合」を作って、山腹点検・除雪・草刈り・ガードレールの設置撤去等々を欅平地区の山小屋と我々で維持管理をすることになりました。 (なぜか別地区の私が副組合長を仰せつかっていますが、こんな管理方法は他に無いはず。予算が無いんだから自分で出来る事は自分で!

こんな面倒な事に成ったかと言えば、2003年8月に奥入瀬渓谷で遊歩道にブナの枯れ枝(長さ7m直径約20cm)が斜面から落ちて来て、観光客にぶつかって重度障害を負ってしまう不幸な事故が発生しました。

国と青森県が管理責任を問われて、最高裁まで争った末に管理責任が認められて2億円の支払いを命じられてしまいました。(現実問題として、雪解け・強風毎に歩道上部の山腹全体を調べられないのだけど・・・)

他にも「管理責任」を問われて訴訟に至る案件が・・・。(役所にしてみれば、やってられませんよね。 ちなみに、奥鐘橋を渡った先には「この先危険!」みたいな看板が多いのはそのためです)

自然公園を楽しんで貰うには山の中の管理主体・管理方法、そして入る側(特に観光客)への「街の公園とは違い危険が伴うエリアである」との周知活動等々、制度変更を含めて真剣に考えてゆかねばならないかと!

外国人観光客が増えたからって、はっきりしないまま受け入れればいいというモノではないかと考えます。(文化が違うので、自然への接し方がマチマチの様な)

古い話しですが、雑誌「WEDGE」2010年8月号に取材を受けて2ページの記事が載っています!

冷や汗もの!Ⅳ(チームに、ありがとうです)

2019-03-02

写真

直近に、落石の直撃を受けた立木!(予知と言うよりも、観察して想像すれば身を守れます)

危険な作業については、何でも言い合えるチームである事が大切かと。 

色んな視点・感覚等で、見て・感じて・考えて意思疎通をしながら事に当たれば良い仕事が出来るかなって! (独りよがりのリーダーは???)

みんなの意見をまとめて決断して、みんなでフォローし合って事に当り、それでも失敗したら最終的な尻拭いはリーダーが引き受ける覚悟が伝わればチームが一つに成れるはず!

私の場合は、自分に自信が無いから・・・チームに頼り過ぎてますが、それもチームワークかと!

もう一つ大切なのは、実力を見て現場に連れてゆくには危険と思われる人間を同行させない決定をすること。(たまに勘違いして来る人がいて、心を鬼にしなければ、チームが危険に曝されます。って、私も公務員やってれば定年年齢です。そろそろ引退時期なのですが・・・)

若い衆は体力的な余裕を持って事に当れる様に体力錬成と技術を磨き、ベテランは現場での体験・経験を伝えて、私はこの仕事は泥だらけでカッコ悪いし大変な仕事だけど遣り甲斐とプライドを持てるって煽る???のが担当かと!

今まで、黒部の危険な現場でギリギリ怪我無く来れたのは、正直ラッキーでした。(運も実力の内?) しかし、その都度頼りになるメンバーが集まって、コミニュケーションの取れるチームが出来上がって来た事が大きいかな~っと・・・冷や汗の分だけ黒部の為になって来たのかなって。(人生いろんな汗がありますが、汗をかかずに良い仕事は出来ないと思うし、収入が入っても気持ち悪いでしょ・・・?)

大した日当にもならなかったけど、誰かがやらなければならない危険な仕事を無事にこなして、金で買えない達成感を共有出来たチームのみんなにありがとうです!

冷や汗もの!Ⅲ(資質)

2019-03-02

写真

下の廊下、十字峡上流の地滑り地点!(毎年、丸太桟道で歩ける様に整備されます)

前ページから!

当たり前ですが、何時も気を抜く事なく感覚を研ぎ澄ませていなければならないってことです。

例えば、交通事故の加害者に付けられる「業務上過失」の場合に、漫然ととの文言で事件送致されるのと同じで、生きてゆくには必須というか普段は誰もが出来ているはずですが、疲れや考え事したりで集中力を欠いてしまい・・・。(ボーッと生きてんじゃねーよ!ってことです) 

まずは、何が普通なのか!って言うか、山に入ったら「なんでだろう?」って興味を持って考えて歩いて頂けたら、この感覚は自ずと身に付くのではないかと。

一般登山道を歩く時は、作業とは違い危険度は大きく下がりますが基本は同じです。

気を抜かずに周りに気配りしながら、

・構造物(梯子・ロープ等)を使う前には、引っ張ったり揺すって確かめてみる。

・斜面や樹木に新しい傷が無いか?新しいものが有れば、最近落石が走った後かも!(草・葉の潰れた臭いや泥の臭いも同じ)

・岩盤の色の違い。(白っぽいのは水が流れるルート=落石の通り道だから長く留まらない)

等々に配意しながら歩いて頂ければ事故防止にもなり、新たな山の魅力を見付ける事に繋がるのではないでしょうか!

(例えば、何で祖母谷が出来たのか?何で山菜が採れる場所と採れない場所が有るのか?とか)

冷や汗もの!(危険予知能力?)Ⅱ

2019-03-01

写真

山腹調査中!(黒薙温泉大露天風呂上部)

大仏達は、作業中に斜面から細かな砂・石がポロポロ・サラサラと噴き出すように落ち始めたので???

なんかおかしい・・・? 気持ち悪いからと、崩壊面より下流側の尾根状の灌木帯に全員異動して休憩したところで、さっきまで作業していた崩壊面を一回り大きくしたエリアで大音響と地響きと共に地滑りが発生したとのことでした。

元々の崩壊面上部の灌木帯も流されてしまったので、懸垂下降やザックをデポするために利用していた立木は斜面と一緒に流されてしまっていました。

午前中に私が作業をするためにザイルを掛けていた立木も、直径20㎝余りのシッカリした広葉樹で根も広く張っていたのですが跡形どころか斜面自体が無くなって・・・。ダイブツは、その立木に自分のザックをスリングで固定していたそうですが、個人装備・行動食等々は哀れ祖母谷川の藻くずと成ってしまったのです。

河原に堆積した岩屑の中には全くザックは見えず、降りて探しに行く気に成らないほど大量の岩屑(道路下部の斜面も壊しながら行ったので、10tダンプ5杯以上は軽く有ったかと)が堆積して、もし人間が巻き込まれていたら???ミンチになっていたのではないかと思うと全身から冷や汗が・・・!(ちなみに落ち着いてから汗を拭うと、土煙で肌と鼻の孔は真っ黒に)

危険予知能力?とまでは言いませんが、何か違う!と感じたから事前に非難することが出来たのです。

私自身、午前中その斜面で作業に当っていましたが、そのような兆候は無かったし安心して立木を利用していたのです。時間が経ったら、状態も変わってゆくことも有るって勉強に成りました。

(先の論文で、この辺りの斜面の特性で地滑りが二次的に発生した理屈が分かりました。事前に山を見る目が養われたような気がします)

続く!

冷や汗もの!(危険予知能力?)

2019-02-28

写真

日本地すべり学会誌 第56巻 第1号 別刷

先日、日本地すべり学会誌が送られて来ました。

2012年4月末に欅平~祖母谷温泉間で発生した、地すべりの復旧作業を我々で行った際に、柏木・日野両氏が同行して調査してくれたものを論文?にしたものです。

林道上部、高さ29m・幅18mの斜面が地滑りを起こして林道ごと祖母谷川まで押し流してしまい、その区間の道路はは欠落してしまいました。

崩壊面の基部の土砂を均してロープを張り込んで、なんとか人間は行き来が出来るものの車の往来などは及びもつかない状態で、このままでは祖母谷の源泉を利用している欅平周辺の温泉施設・足湯等へ温泉が送れません。 当然、祖母谷温泉までお客さんに安全に行ってもらう事も出来ません。

取りあえず、崩壊面に残っている浮き石・浮き岩等を除けてからでないと復旧作業も出来ないので、崩壊面上部の立木を支点にしてロ―プで懸垂下降しながら作業を始めました。

午後一に、私が現場の下流側林道のカーブを回り込んだところで見張りに当っていた時のことです。

突然、「ゴゴゴ―ッ」っと大音響と地響きが響き渡り、作業をしているはずの崩壊面の辺りが土煙が立ち込めて崩壊面は全く見えません。

50m余り下の谷底を覗いてみると、岩と土砂と樹木が混ぜこぜになって土煙と共に崩れ落ちています。

「ダイブツーッ!ナガイーッ!トーシ!」って、大声で呼びかけてみますが返事が・・・。 崩落音が治まった頃、崩壊面上部から「オーイ」ってコールが返って来て、幸いみんな難を逃れて無事が確認されたのでした。

続く!

アーカイブ

最近の記事